女川の朝は海からの風が強く、ちょっと肌寒かった。

昨夜はトイレから少し離れた場所に車を停めたので、朝になってトイレに近い場所へ移動する。

やっぱりトイレの近くは人気がある。

キャンピングカーも何台か停まっている。

その中に、札幌ナンバーが3台。

「北海道から来たのか……」

なんとなく気になって、隣に停まっていたバンコンの人に声をかけてみた。

「札幌から来たんですか?」

「そうです」

「これからどちらへ?」

そんな、旅先ではよくある社交辞令から会話が始まった。

話を聞いてみると、この人も一人旅。

金曜日までに東京へ入る予定らしい。

普段は奥さんと犬連れで旅をしているそうだが、今回は一人。

おいおい……

それって、俺と一緒じゃねぇか。

心の中で、ちょっと笑った。

旅に出ると、こういう偶然が面白い。


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朝飯は、やっぱり海鮮丼 🐟

道の駅というところは、だいたい9時頃から店が開き始める。

食事となると10時頃。

女川へ来たなら、やっぱり海鮮丼だ。

……というより、港町へ来れば、どこへ行っても海鮮丼を食っている気がする。

まあ、それも旅だ。

時間まで道の駅周辺をぶらぶら歩いていると、震災の爪痕を残す、旧女川警察署の被災遺構があった。

女川は湾の地形から、津波の被害が特に大きかった地域だという。

鉄筋コンクリートの建物が、津波によって根こそぎひっくり返されている。

鉄筋コンクリートの建物まで、こんなことになるのか。

改めて見ると、津波の力というものは、とんでもない。

言葉が出なかった。

そうこうしているうちに10時になった。

道の駅の「おかせい」で、いよいよ海鮮丼。

壁には有名人のサインがずらりと並んでいる。

テレビではサンドウィッチマンにも紹介された店らしい。

さすがテレビの力はすごい。

券売機を見ると、ここもタッチパネル。

画面をポチポチ押して、注文完了。

料理ができると番号を呼ばれて、自分で取りに行く。

便利になったもんだ。

でも、おっさんはふと思う。

こうやって、だんだん人と人が話す場所が減っていくんだろうなぁ……。

昔なら店員さんと、

「今日はどこから来たんです?」

なんて話が始まったかもしれない。

便利なのは間違いない。

でも、ちょっと寂しい気もする。

そんなことを考えながら、朝から海鮮丼を食らう。

家内には、ちょっと申し訳ない。

すると、後から入ってきた30歳くらいの若い男。

海鮮丼だけじゃない。

別の丼まで注文して、さらに朝からビール。

小柄な男だったが、

「こいつ、よく食うなぁ……」

おっさん、思わず感心してしまった。


震災の爪痕を見ながら、気仙沼へ

さて、今日は気仙沼まで向かう。

ただ走るだけなら、それほど遠くない。

だが今回は、途中に残された震災遺構を見ながら進む。

最初に訪れたのは、旧大川小学校。

ここでは多くの児童と教職員が津波の犠牲になった。

慰霊碑の前で手を合わせる。

70歳のおやじ。

さすがに胸が詰まる。

ちょうど外国から来た学生らしい団体も訪れていた。

日本語ではない言葉が飛び交い、その生徒たちにガイドの方が当時のことを説明している。

津波の高さは、場所によっては30メートルにも及んだという。

15年前の出来事なのに、こうして現場に立つと、遠い昔の話には思えない。

次に立ち寄ったのは、南三陸町。

ここにも、震災の記憶を残す建物がある。

鉄骨だけが残った被災庁舎。

テレビや写真で何度も見た光景だが、実際に目の前にすると、やはり違う。

しばらく立ち止まってしまった。


気仙沼で、震災を伝える場所へ

さらに気仙沼へ向かう。

訪れたのは、気仙沼震災伝承館。

ここでは被災した建物を見るだけではなく、映像を使って当時の状況を伝えている。

中でも、夫や子供を亡くした女性が、その後も一生懸命に生きている姿を語る映像には、胸にくるものがあった。

女川から気仙沼までは、距離だけなら90キロほど。

普通なら2時間もあれば走れる。

ところが今回は違う。

震災の跡を見て、立ち止まり、考える。

そんなことを繰り返していると、一日なんてあっという間だ。


気仙沼の夜は、ちょっと予定外 🍺

今日の車中泊場所は、気仙沼港にある「みしおね横丁」。

トレーラーハウスが並び、銭湯やバー、居酒屋などもあるらしい。

「ここで風呂に入って、地元の人と一杯やれたら最高だな」

そんなことを考えながら、4時過ぎに到着。

ところが……

人の気配がない。

ラーメン屋からは豚を煮込んでいるような、なんとも食欲をそそる匂いだけが漂ってくる。

スマホで調べると、営業は5時から。

しかし4時半になっても、ほかの店が開く気配はない。

どうやら、今日はここで一杯というわけにはいかなそうだ。

仕方がない。

Google先生に聞いてみる。

すると近くの港の岸壁に、トイレがある。

しかも、きれいそうだ。

「よし、今日の車中泊地ここだ」

トイレの近くへ車を移動。

風呂はキャンピングカーのシャワーで済ませることにした。

アドリアのシャワーはありがたい。

目の前にコンビニもある。

だが……

コンビニ飯じゃ、ちょっと味気ない。

そこで、おやじは一人、ふらふら歩き出した。


串カツ屋で、もう一人の旅人と出会う 🍺

少し歩くと、串カツの店があった。

「海鮮ばかり食ってるから、久々に揚げ物もいいか」

店に入り、まずは生ビール。

我々の世代なら、

「とりあえずビール!」

これが基本だ。

最近の若い人には、どうやらこの常識は通用しないらしい。

時代は変わったもんだ。

串カツを何本か注文して飲んでいると、一つ離れたカウンターに年配の男性が入ってきた。

どうやら、この人も一人旅らしい。

一見、漫画家の恵比寿能収に似ている。

少しして、「地元の方ですか?」

「いや、広島からです」

そこから、また旅先の社交辞令が始まった。

聞けば74歳。

俺より少し先輩だ。

目上の人には、ちゃんと敬語で話さなきゃいかん。これが昭和のマナー。

話を聞いていると、20年前に奥さんを亡くし、それから年に数回一人でワゴン車の旅をしているという。

東北から青森へ行き、そこから新潟方面へ。

2週間ほどかけて回るらしい。

「車中泊ですか?」

そう聞くと、基本はビジネスホテル。

夜は居酒屋などで飯を食う。

ホテルは予約せず、飛び込みで泊まるらしい。

平日なら、まあ何とかなる。

週末は難しい。

そのときはワゴン車で車中泊。

聞いているうちに、自分は思った。

なんだ……俺と同じじゃねぇか。

旅をしていると、年齢が違っても、妙に話が合う人に出会うことがある。

この人も酒が好きらしい。

生ビールから始まり、日本酒、ホッピーと、まあよく飲む。

ところが、こっちのテーブルを見て、

「兄さん、酒好きやねぇ」

と言う。

いやいや(あんたほどでは)……

言われてみれば、俺も生ビール1杯にハイボール5杯。

知らないうちに、結構飲んでいた。

人のことは言えない。

そのうち先輩のほうも、だんだんとロレツが怪しくなってきた。

酔っ払いというものは、ロレツが回らなくなると、なぜか余計なことまで喋り始める。

「そろそろ潮時だな……」

俺はそう思って、店を出ることにした。


旅の夜は、岸壁で一夜を明かす 🚐

店を出ると、港は船の音だけで静かだった。

たくさんの船が停泊している岸壁。

海風を感じながら、キャンピングカーへ戻る。

今日は、ここで一夜を明かす。

震災の記憶をたどりながら走った一日。

そして最後には、広島から来た74歳の旅人と酒を飲んだ。

旅というのは、不思議なもんだ。

観光地を見て回るだけが旅じゃない。

ふとした場所で人と出会い、

「なんだ、あんたも一人旅か」

と話が始まる。

そんな小さな出会いが、旅をちょっと面白くしてくれる。

船の灯りを眺めながら、今夜もキャンピングカーで一人。

明日は、どこへ行くか……

まあ、明日のことは明日考えよう。

それが、おやじの一人旅ってもんだ。


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